イルカの広場
梅光学院大学文学部日本文学科 文芸・創作コースの教員・学生が執筆したリレー小説を公開しています。

「おうーい、カモメよ」をご愛読のみなさまへ。

今月から梅光学院大学は新学期が始まりました。

合わせて「おうーい、カモメよ」も更新再開の予定でしたが、諸事情により、もう少しお休みをいただきたいと思います。

楽しみに更新を待ってくださっている読者の皆様には大変申し訳ありませんが、もう少々再開までお待ちください。

平成22年 10月8日 スタッフより

『おうーい、カモメよ』をご愛読の皆様へ。

梅光学院大学は夏休みに入りますので、イルカの広場も本日より夏休みに入ります。
再開は2010年10月1日の予定です。

今後とも『おうーい、カモメよ』をどうぞよろしくお願いいたします。

平成22年 8月7日 スタッフより

  窓に星の出た野中蝶子の研究室 その7

               野中蝶子

机の電話が鳴って野中蝶子が受話器を取る。

上山千春の声が流れる。

「先生、私の車で駅までお送りしましょうか」

「ありがとう。では五分後に駐車場で……」

蝶子、気合いを入れて、最後の作品を読む。

 

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            日文二年  歩亜

夕方、小学生の男の子が二人、飼育小屋の前で話をしている。
「兎って、じつは鳥なんだって」

「嘘だあ、そんなわけないじゃん」

「だって母ちゃんが行ってたもん。きっと飛ぶんだよ、あいつら」

「どうやって?」

「あの耳で飛ぶんじゃないかなあ」

「確かに飛べそう」

夜。飼育小屋の中。兎たちが整列している。

「番号!」

「一羽!」

「二羽!」

「三羽!」

「四羽!」

「五羽!」

「六羽!」

「七羽!」

「八羽!」

「九羽!」

「十羽!」

「よし、就寝!」

「おやすみなさーい!」

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蜘蛛

           日文二年   大松

 

私は人間という生き物から非常に嫌われているのです。ただ容姿が気持ち悪いと言われ、訳もなく殺されるのです。確かに毛むくじゃらの体に、足は八本。鋭い牙を隠し持っているし、仲間には猛毒を持っているヤツもいる。

でも私たちは、たかが容姿で、人間に嫌われる意味がわからないのです。私たちは人間が厭がる「害虫」を主食にしているので、私たちが減れば「害虫」の数が増え、大変なことになると思うのですが。しかも私たちは鳥などと同じ、天に仕え空に棲むものです。そして時には地獄に糸を垂らして、人助けもしているのに。

私は人間に言いたい。

「いいですか、わけもなく私たちを殺していると、世の中、タイヘンなことになりますよー」

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野中蝶子、明かりを消して廊下に出る。ドアに張り紙をピンで止める。

「夏期休業につき十月一日まで不在」

廊下に靴音を残して去って行く。

※続きは10月1日公開予定

   日の沈んだ野中蝶子の研究室 その6

野中蝶子

部屋はいつの間にか薄暗くなっている。蝶子は立って行って電灯のスイッチを入れると、また机に向かった。

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狡賢いアイツ

日文2年 三三円

(ホントこのふざけたペンネームだけは何とかしてほしいわね!)

彼らは非常に狡賢い。数多くの文明を持ち得た我ら人間ですら、未だ彼らの掌の上で踊らされているに過ぎないに違いない。

「準備はいいな、タロウ。いつものヤツ、いくぞ」

「ワンッ!」

少年田中がペットのタロウに声をかける。

「オッケー、いい返事だ。それじゃあいつも通り、まずは足し算からだ。1足す1は?」

「ワンッ、ワンッ!」

「正解だ。2足す2は?」

「ワンッ、ワンッ、ワンッ、ワンッ!」

「よし、正解。いいぞ。それじゃ引き算だ。3引く1は?」

「ワンッ、ワンッ、ワンッ!」

「よし、今日もパーフェクトだ。すごいぞ、タロウ! よーし、よし」

田中はご褒美と言わんばかりにタロウの頭を力一杯なでた。その手の動きに合わせて、

「クウーン、クウーン」

と嬉しそうに甘えた声で尻尾を振る。

田中はタロウから視線を外すと、そばで見ていた友人山之口に得意げに微笑んだ。

「どうだ? うちのタロウに計算が出来るって話、嘘じゃなかったろう」

「あ、ああ……」

誇らしげに言った田中に、山之口は両の目を大きく見ひらき、驚きを隠せない。

見れば田中の手の中でつい先程まで気持ち良さそうに頭を撫でられていたタロウの表情が、不気味な笑顔へと変わっている。

田中が再びタロウへ視線をやったとき、タロウの表情は戻っていた。

「はは、見ろよ、タロウ。アイツ、お前の頭の良さに驚いて呆然としちゃってるよ」

「ワンッ、ワンッ!」

誇らしげに吠えるタロウ。

彼らは非常に狡賢い。人間の一人や二人、その掌で転がすことなどわけがないのだ。

それをジッと見つめながら、山之口は感嘆の声を上げた。

「いやー、計算が出来るのももちろんだけど。それより何より……とにかく凄いわ、その猫!」

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いいアイデアね。面白いわ。ただ、そのタロウっていう猫、ワンワンと犬の鳴き声ができるってことはわかるんだけど、不気味に表情が変わるというとこなんか、まさか、飼い主の田中には犬の顔になって嘘ついてるってわけじゃないでしょうね?

そこのところが少々あいまいかしら。

蝶子、作品を机に置いて首をまわし肩を叩く。

(続く)

※続きは8月3日公開予定

   昼下がりの教室 その5

野中蝶子

「ああ、これはとてもいいわ」

次の作品を読み終えて蝶子は微笑んだ。

「うさぎがこれを読んだら、たぶんうれし泣きするわね」

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うさぎの生まれ出るところ

日文2年 花折梢高

空を行く鳥たちは、花々から生まれる。また芽吹いたばかりの新芽から生まれる。生命の活力。息を呑む美しさ。鳥というものはそんな中から生まれてきている。

しかし彼らは……、跳ねるだけで空を飛べない彼らは、そんなみずみずしさの中に生まれ出ることはない。彼らの生まれるのは大地の上である。眠りについた木々と別れを告げた落ち葉の、悲しみの積み重ね。それもすべてを受け入れる大地の優しさ。そんな中から彼らは生まれる。

また、他のものたちより遅く生まれるものもいる。それは彼らをあらかた生み出した後、それでもまだ大地に残っていた悲しみが、雪と出会って形になったものである。雪とは空の悲しみである。生き物たちの活力溢れる美しい季節も、別れの哀愁鮮やかな季節も、すべて過ぎ去った後の灰色の季節。その中から生まれる彼らは、すべての悲しみの代弁者である。彼らは雪の色をしている。

彼らは、大地の優しさに支えられて生まれてきた。だから大地を離れることができない。葉から生まれたのだから鳥であるはずなのに、彼らは空を舞えない。だから空に近づきたいと願う。彼らはすべての生き物の眠る夜、暗い空を跳ねる。少しでも高く空へ空へ。あの高い高い月を目指して。

むかし、月を目指した彼らの中に、とうとう月へ到達したものがいる。彼らは今も月で、月を目指す子孫たちを応援している。

それは彼らの中に伝わるおとぎ話である。彼らはそれを信じている。だから月に向かって跳ね続けているのである。月は彼らの桃源郷である。すべての悲しみの行き着くところ。月の柔らかな光が、今日も彼らを「おいで」と誘う。月こそが悲しみのない夢の世界だと、彼らは信じている。

跳ね疲れた彼らは、土の中で眠る。優しい母の中で眠る。時にはそのまま、母の中に戻って行ってしまう。そしてまた季節が過ぎ、落ち葉の悲しみが降り積もるころ、大地の上に生を受け、月を目指して舞うのである。

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うさぎは多産で一度に10羽くらいぽろぽろと生まれてくる。ネズミと似てる。そして野に満ちる。一頭か二頭やっと生まれてくる動物と較べると、ホント、草の露みたいに彼らの命は、はかなく見えてしまう。でも、そんなことに頓着せず、うさぎたちはどんどんどんどん生まれてくる。

そうして月を目指すのね。

(続く)

※続きは7月31日公開予定